公正証書の記載事項

公正証書の記載事項

公正証書を作成する場合に記載する事項としては以下のようなものがあります。


法定記載事項

・当事者本人の氏名、住所、職業、生年月日。
・代理人によって嘱託する場合は、代理人の住所、職業、氏名及び年齢。
・当事者が法人の場合においては、法人の名称および所在地。


公証人法 第36条
公証人の作成する証書にはその本旨の外、左の事項を記載することを要す
1 証書の番号
2 嘱託人の住所、職業、氏名及び年齢若しくは法人なるときはその名称
  及び事務所
3 代理人に依リ嘱託せられたるときはその旨並びにその代理人の住所、
  職業、氏名及び年齢


※裁判所においては、DV等の危険性がある事件については、嘱託人本人の保護のため、現住所を秘匿した形式での申立てを認めており、公正証書の作成手続においても、同様の事情がある場合には、住所を秘匿しての作成を認めてもらえる場合があります。
もっとも、その場合、強制執行上の問題があるため、現住所に代えて、住民票の住所、本籍、代理人弁護士の事務所所在地などを記載する方法によって行うことになります。


離婚の合意と離婚届の提出

離婚協議書または離婚公正証書の作成は、離婚することについて双方が合意をしていることが大前提です。

離婚することについて条件や期限を付けることは出来ません。

また、裁判によらずに離婚自体を強制する術はありません。

そのため、双方が離婚することに合意した旨を簡潔に記載します。

また、離婚をするためには、離婚届の提出が必要です。
仮に当事者間で合意していたとしても、離婚届を役所に提出しない限り、離婚は成立しませんし、離婚届の提出そのものを強制する術はありません。

離婚届の提出時期と提出者についても、将来的なトラブルや誤解を避けるため、提出時期と提出者を決めて明記しておくと良いです。


子供の親権に関する事項

未成年の子がいる場合、離婚届に親権を定めていなければ、離婚届は受理してもらうことが出来ません。

子どもが複数いる場合には、それぞれの子について親権者を記載する必要があります。


子供の養育費に関する事項

平成24年4月1日から民法改正により、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める(民法766条)ということが明文により規定されました。

そのため、養育費、および面会交流、について、その有無や具体的な方法などを明記します。

養育費と面会交流、は、それぞれ別個の独立した権利義務でありますので、「面会交流しない場合は養育費を支払わない」「養育費を支払った場合には面会交流を認める」などという条件を定めることは出来ません。


養育費については、その支払開始時期と支払終了時期、および毎月の支払金額と支払日(毎月○○日、毎月末日、など)、支払方法(預金口座への振込、現金書留、など)を記載します。
その他、物価の変動や当事者の再婚、失職、子の生活状況の変化、その他の事情変更が生じた場合や、子の進学による入学金・授業料・学用品代等、病気・事故による治療・入院等のために必要とされる特別費用の負担が生じる場合に「協議する旨」などの条項を記載します。

子供の養育費は、子供が日々生活する上で必要となる生活費であり、子供固有の権利を親が法定代理人として代わりに取り決めているものですので、他の夫婦間の「慰謝料」や「財産分与」と相殺することは出来ません。


子どもとの面会交流に関する事項

一般的には、その頻度を「○ヶ月に○回程度、など」を明記し、「その日時、場所及び方法等は、子の福祉に配慮して、甲乙協議のうえ定める。」等と定めます。

また、必要に応じて、面会の日時や場所、受け渡しや引渡しなどの具体的な実施方法について特定する場合もあります。

その他、面会以外の電話やメールなどの交流の頻度や制限の有無、夏休みや冬休みなどの宿泊の有無、日数・回数、運動会や入学式などの学校行事に関する参加の有無、誕生日やクリスマスの面会やプレゼントの有無や制限、などを定める場合もあります。


夫婦間の慰謝料に関する事項

夫婦間の慰謝料の有無、支払方法などを記載します。

慰謝料の有無、金額、支払回数(一括支払いか分割支払いか)、支払期限(分割支払であれば支払開始時期と終了時期、毎月の支払期日、支払月額、など)、支払方法(預金口座への振込、現金書留、など)を記載します。


夫婦間の財産分与に関する事項

夫婦間の財産分与の有無、支払方法などを記載します。

金銭の分与がある場合は、金額、支払回数(一括支払いか分割支払いか)、支払期限(分割支払であれば支払開始時期と終了時期、毎月の支払期日、支払月額、など)、支払方法(預金口座への振込、現金書留、など)を記載します。

不動産や動産、有価証券や生命保険、退職金、などの分与については、その具体的な分与する財産の内容、分与の時期、方法、分与にかかる実費負担や手続きを誰がするか、などを明記します。


夫婦間の年金分割に関する事項

年金分割をする場合、平成20年4月1日以降の分については、「3号分割」といって、一方が年金事務所に届出をするだけで自動的に2分の1の割合で分割となりますので、同日以降の分についてのみであれば記載は不要です。

平成20年3月31日までの分については、「合意分割」といって、当事者の一方だけで年金分割の手続きを行う場合には、合意した内容の書面(協議書等)に双方が署名捺印をして公証人からの認証を受けるか、もしくは、公証人が作成した「公正証書」が必要です。
当事者間で按分割合(通常は50%)を定め、年金手帳番号などの特定出来る情報を明記します。

公正証書の場合は、離婚協議書と違い、公正証書の謄本とは別に、年金事務所や共済組合への提出用に、年金分割の取り決め内容部分のみを記載した「抄録謄本」を交付してもらえますので、その他の内容は第三者に知られずに済みますから安心です。

「期限の利益喪失」「遅延損害金」条項

金銭の分与や慰謝料などの支払いについて分割払いを定める場合、何回以上支払いを行った場合に残額一括払いとするか(期限の利益喪失)などを記載しておきます。

その条項が無い場合、仮に支払いが停止した状態になっても、遅延した分割金のみしか強制執行を行うことが出来ません。

また、支払いを遅延されることで、不要な借入や利息負担が生じることがありますので、遅延損害金(年率○%、など)を予め定めておくことが可能です。


なお、養育費については、「期限の利益喪失」の条項を定めることが出来ません。
これは、子供が生きて暮らしている上で日々発生する生活費であるという性質上、仮に遅延したとしても、期限の利益を失わせて、一括して将来の分まで支払わせるということは、その養育費の性質に反するためです。

東京家庭裁判所 平成18年6月29日 決定
「期限の利益喪失約款を規定することは、その定期金としての本質上親しまない」


ただし、養育費については、民事執行法の特則があり、「期限の利益喪失」の記載をしなくても、相手の給料などの定期収入に対して、手取り2分の1まで、将来分も含めて継続的な差押が可能ですので、心配は不要です。

また、養育費に関しての遅延損害金の定めは、公証人によっては、その定めを認めない場合がありますので、注意が必要です。


通知義務条項

離婚後に、養育費の支払いや子供との面会交流、金銭分与や慰謝料の分割払い、等の定めがある場合、その期間が終了するまでの間、お互いに連絡が取れるようにしておく必要があります。

そのため、必要に応じて、住所の移転や連絡先電話番号や振込先口座等の変更が生じた場合には相手方に通知する、という趣旨を明記しておきます。


守秘義務条項

必要に応じて、離婚後に相互に私生活や業務に干渉しない旨、婚姻期間中の夫婦間しか知りえない情報や、相手方の名誉や尊厳に関わる事項につき、第三者に口外・漏えいしないこと、などの約束を明記しておきます。


清算条項

この条項は、余計なトラブルや誤解が生じないように、公正証書に明記した項目以外には、相互に権利や義務が一切何もない、ということを明記するものです。

一般には、
「甲と乙は、離婚に伴う財産上の問題に関し、本証書に定めるほか一切の債権債務が無いことを確認し、名目の如何を問わず、何等の請求を行わないことを相互に確認する。」
などと明記します。

一部取り決め条件が確定していない部分がある場合は、
「甲と乙は、○○○○に関する問題を除いては、本協議書に定めるほか一切の債権債務が無いことを確認し、、、」
などと記載する場合もあります。


合意管轄条項

離婚届出の前後に当事者間で紛争が生じた場合、原則として、調停の申立をするか訴訟を起こす必要があります。

調停については、原則として相手方の居住地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります(家事事件手続法第245条)。
民事訴訟については、相手方の居住地を管轄する裁判所の他、申立人の居住地を管轄する裁判所でも申立することが可能です。

そして、第1審にかぎり、当事者間の合意によって法定の管轄と異なる管轄裁判所を定めることができます (民事訴訟法11条) 。


民事訴訟法11条(管轄の合意)
1 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。


家事事件手続第245条(管轄)
1 家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。
2 民事訴訟法第11条第2項及び第3項の規定は、前項の合意について準用する。


この「管轄の合意」には、どこの裁判所にするか(土地管轄)、および簡易裁判所か地方裁判所か(事物管轄)などについて取り決めることも可能です(最高裁平成20年7月18日決定参照)。

※高等裁判所や最高裁判所を合意することはできません。

公正証書の作成後に、当事者間で紛争が生じた場合、遠方の裁判所に申立をするしか無くなったり、あるいは、遠方の裁判所に申し立てられて出頭しなければいけなくなってしまうとなると、多大な負担を強いられる恐れがあります。

そのような問題を予防するために、必要に応じて、「合意管轄」を定めておきます。

一般には「甲及び乙は、本契約に伴う一切の紛争について、第一審の管轄裁判所を●●裁判所とすることに合意した。」という趣旨の表記をします。


強制執行認諾条項

「強制執行」とは、支払義務のある方が支払いをしない場合に、裁判所が強制的に、支払義務者(債務者)の給与や預貯金、不動産などの財産を差し押さえ、お金以外の財産は競売などをして換金し、その支払に充ててくれるという制度です。

通常、「強制執行」を行うためには、裁判を起こして勝訴判決を得る必要があります。

しかし、公正証書に金銭の支払を定めた場合、強制執行されることに合意しましたという趣旨(強制執行認諾条項)を記載することで、直ちに強制執行の申立をすることができます。

通常は、「債務者は、金銭債務を履行をしない場合は、ただちに強制執行に服する旨陳述した」という記載をします。




定めることの出来ない条項

公正証書は公文書でありますので、定める項目に制約があり、原始的に不能な条件、将来的に無効になる可能性のある条件を取り決めて作成することが出来ません。


(1) 例えば、仮に当事者間で養育費を月額100万円ずつと合意で定めたとしても、支払う側の月収が月20万円で、他に資産や収入がなく返済不能であると認められれば、公証人にその条件での公正証書の作成を拒否されます。
(2) 契約当事者以外の第三者に対して義務を課す又は権利を与えるような定めをしたとしても、その第三者には何らの権利は義務は生じません。
第三者に権利や義務を生じさせたいのであれば、その第三者も契約当事者に含めるか、別途、その第三者との間で契約を取り交わす必要があります。
例えば、AさんがBさんにCさんの所有物を売る(または贈与する)という契約をした場合でも、Cさんには何らの義務も生じませんので、仮にA・b間で契約が成立していても、Cさんはその引渡しを拒むことが出来ます。
この場合、契約そのものは無効になりませんので、Aさんは、Bさんに対する「債務不履行責任」を負い、売買代金を返金したり、損害賠償責任を負うことになります。
そうすると、取り決めた合意が履行不能になる可能性がありますので、公証人に、そのような条件の定めを拒否される可能性が高くなります。
(3) 法令上の規定によって、当事者間の合意で決めることが出来ない項目があります。
例えば離婚後の「親権の変更」については、家庭裁判所に親権変更の調停や審判の申立を行うことは出来ますが、最終的には、家庭裁判所が、子の福祉を考慮して決定することになりますので、父母間で予め取り決めることは認められません。